義雄は、北鎌倉の駅で降りる。
陽射しは厳しいが、風が吹きわたり涼しい。
義雄は、鎌倉にある公園まで歩く。さすがに汗をかく。
桜花は、静かに横たわっていた。
日本帝国軍が開発した、有人ロケット弾。
義雄は汗を拭いながら、721海軍航空隊すなわち神雷部隊への募集が実施されたのも、こんな暑い日だったと気付いた。
神雷とは、桜花のことだった。
だから、募集といっても、それは、国家のために死ねという命令だった。
友が、応募した。
誰かが、行かなければならない。
義雄は、ただ何度も頷いただけだった。
トトト・ツー。神雷部隊が、無線を発する。攻撃突入。
その無線を発した後、神雷部隊は、完全な沈黙を守った。
後に人々は、その沈黙は、死を強いられた人間の精一杯の抵抗ではなかったかと話し合った。
けっきょく、神雷部隊は、沈黙のなかで、全滅した。
桜花は、ついに母機から発射されなかった。
友は、栄光の死も拒否されてしまった。
犬のように死んでいったのだ。
海風が、義雄と桜花の間を通り過ぎる。
義雄は、デイ・パックから写真を取り出す。
古く、空気に酸化され黄ばんだ写真。
義雄と友が、並んで写った写真。
まだ、20代の友は、屈託なく笑っている。
※桜花は、日本帝国軍が実際に開発した兵器です。
1995/09/14