2016/03/24

暖炉

 夜空に輝く星は、澄んだ光りを放っている。
 夜は、底の底まで冷えきっている。

 暗い部屋。暖炉の炎。
 ファイヤー・ウッドから、樹液が落ち、じゅっと音を立てる。

 2人の人間が、テーブルを挟んで、座っている。

 カイは、ワイングラスの中のワインを、暖炉の光りで照らす。
 ワインの放つ艶めかしい赤に、ルイは魅入られる。
 カイは、ワインを舌の上で転がし、感触を味わってから、飲み込んだ。

 カイは、暖炉の炎を見つめる。

 あ奴は、この炎のようだった。周りのものに、鋭い陰影を与え、普段は隠されているパトスをあらわにする。
 奴は、心の奥底に埋められている、危険で甘美なものを、地上に引き摺りだしてしまうのさ。
 そして、それを上手く操り、こちらを奴の支配下におく。
 いってみれば、奴は、パトスのプリンスさ。

 奴は恐ろしい、そして、俺が今まで見た人間の中で、最も美しい人間だ。

 カイは、グラスをテーブルに置く。

 奴と出会うことによって、俺の魂は、損なわれてしまった。

 カイは、ルイにもう片方の顔を見せる。肉が爛れ、流れ落ち、一部分では、骨が露になっている。

 俺は、逃げに逃げただけだ。
 ルイ、そんな奴が、お前が戦わなければならない相手だ。

 ルイは、身体の芯から、冷えてくるのを感じる。
 ルイは、しばらく待つ。
 身体の震えは、こない。

 僕は、戦える。
 ルイは、そう思った。

1995/09/05