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2016/03/24

暖炉

 夜空に輝く星は、澄んだ光りを放っている。
 夜は、底の底まで冷えきっている。

 暗い部屋。暖炉の炎。
 ファイヤー・ウッドから、樹液が落ち、じゅっと音を立てる。

 2人の人間が、テーブルを挟んで、座っている。

 カイは、ワイングラスの中のワインを、暖炉の光りで照らす。
 ワインの放つ艶めかしい赤に、ルイは魅入られる。
 カイは、ワインを舌の上で転がし、感触を味わってから、飲み込んだ。

 カイは、暖炉の炎を見つめる。

 あ奴は、この炎のようだった。周りのものに、鋭い陰影を与え、普段は隠されているパトスをあらわにする。
 奴は、心の奥底に埋められている、危険で甘美なものを、地上に引き摺りだしてしまうのさ。
 そして、それを上手く操り、こちらを奴の支配下におく。
 いってみれば、奴は、パトスのプリンスさ。

 奴は恐ろしい、そして、俺が今まで見た人間の中で、最も美しい人間だ。

 カイは、グラスをテーブルに置く。

 奴と出会うことによって、俺の魂は、損なわれてしまった。

 カイは、ルイにもう片方の顔を見せる。肉が爛れ、流れ落ち、一部分では、骨が露になっている。

 俺は、逃げに逃げただけだ。
 ルイ、そんな奴が、お前が戦わなければならない相手だ。

 ルイは、身体の芯から、冷えてくるのを感じる。
 ルイは、しばらく待つ。
 身体の震えは、こない。

 僕は、戦える。
 ルイは、そう思った。

1995/09/05

2016/03/19

 雲の無い、夜空。満月。

 草影で、ルイは、背中の翼を畳み、敵を待っている。
 草々は、夜露を含み、先端で、水滴を作っている。

 遠くで、月光を受け、草の水滴が、きらりと光る。きらめきは、遠くから近くへと、草々の水滴を伝わってくる。

 敵は、光りのモードで戦う。
 そう思った瞬間、ルイは、敵の太刀を受けるために、剣をさっと抜いた。
 ルイの剣と、敵の剣が、ぶつかり、火花を散らす。

 敵は、火花の放つ光りとなり、瞬時に移動する。
 ルイは、迷わず、身体をスピンさせ、真後ろを向く。
 剣と剣がぶつかる。
 火花。
 瞬時に、敵は消える。

 このままでは、殺られる。
 ルイは、一気に、上空遥か高く、移動した。光りが追ってくる。

 ルイは、無数のルイに取り囲まれる。無数のルイが、ルイに襲いかかる。
 ルイは、目を閉じる。

 ルイの戦いのモードは、風だ。
 風を、僕の視覚の代わりにすればいい。

 風を感じる。
 ルイは、そこへ向かって、スクリューさせた、マッハの速さの風を、放った。
 敵は、月光に乗って、風の攻撃を、寸前で避けた。

 地表へ逃れる敵を、ルイは追う。

 ルイは、スクリュード・ストリームを、地面に向かって放つ。続いて、敵の後方に向かって放った。
 地面に到達した、ストリームは、跳ね返り、上空に方向を変える。
 敵は、上下のストリームに、挟まれる。

 2つのストリームは、ぶつかる。
 どーんという、腹に響く音がする。
 敵の気配が、消える。

 ルイは、目を開ける。
 真円の月が、青白く光っている。

1995/08/27

2016/03/17

戦い

 20世紀初頭、まだ映画は、1つの産業として、確立されていなかった。
 しかし、その産業を独占を独占しようとする戦いは、すでに開始されていた。

 エディスン社は、当時のアメリカで、最も有能な法律事務所、ダイヤー・アンド・ダイヤー事務所を使って、1897年、特許戦争を開始した。

 映画をレンタルしたり、上映したりする者は誰でも、エディスン社に特許料を支払わなければならない。
 エディスン社は、1通の発明特許によって、映画産業の独占を図ったのだった。

 エディスン社は、1908年1月、アスター・ホテルでの主要映画会社との契約によって、輝かしい勝利を得た。
 その契約は、販売したフィルム1フィートにつき、2分の1セントをエディスン社に支払うことを取り決めたものだった。
 1909年には、エディスン社は、120万ドルの収益を手にした。

 重要なのは、1908年12月に、ニューヨーク、ブリーヴァート・ホテルで結ばれた、契約だった。
 その契約に署名した9社以外は、アメリカで、1フィートたりとも、フィルムを作ったり売ったりできない。

 カルテルが形成され、魔術師エディスンは、満面に笑みを浮かべた。

 しかし、勝利は、長続きはしなかった。
 カルテルに反抗した、興行者たちは、早くも、1909年3月、独立映画連盟という同盟を設立し、カルテルに宣戦布告した。

 カール・レムリとパトリック・A・パワーズという闘争好きの男たちが、喜々として戦った。

 独立映画連盟は、リュミエール社とコロムビア映画社を加盟させ、カルテルを急速に崩壊させた。

 屈服してしまう者もいるが、強大な力に、戦いを挑む者もいる。

 レムリやパワーズのような男たちが、社会を活気づける。

1995/08/11

2016/03/16

伝説

 時は、戦国。
 ある国に、武という、豪の者がいた。

 子供の時、はや、人並み外れた体格を得ていた。酒に酔い、乱暴を働いていた、荒くれ達を、片手で、次から次へと、投げ飛ばしたそうだ。
 荒くれ達は、相手が、子供だと知って、驚き、その子供に忠誠を誓った。

 武は、もともと、父親的性格の持ち主だった。
 武は、一帯の荒くれ達を、率いるようになった。

 ある日、武は、荒くれ達の中から、主だった者を集めた。
 俺は、この国の殿様に仕えてみようと思う。
 この国で、俺達の相手になる者は、もう、誰もいない。
 しかし、国と国になれば、手強い奴らが、わんさといる。
 俺は、そ奴らと、戦ってみたいのよ。

 荒くれ達も、戦うことを何よりも、愛していた。

 武と、その一団は、この国の、正規軍になった。
 この国の主も、当然、覇権を狙っていた。
 武たちの申し出は、渡りに船だったのだ。

 武一団に、馬と武器と食料が支給された。
 武は、防具は、悉く、返した。馬の負担になる。歩行の負担になる。
 武は、戦いにおいて、最も、大切なのは、スピードだと知っていた。

 武一団は、強敵を、次から次へと破った。
 武の国は、覇権を握ろうとしていた。

 国主は、武たちの労をねぎらうために、武たちを、城内に招いた。
 その席に出された酒に痺れ薬が、入っていた。

 武が、目を覚すと、剣を片手に、仁王立ちになった殿がいた。
 身体は、動かない。

 なぜ、俺を殺す?
 そなたは、私のことを、疑ったことがあるまい。
 そなたは、純粋過ぎる。
 いまの段階で、それは、非常に危険だ。

 主は、その言葉を言い終わらないうちに、一刀のもと、武の首を撥ねた。

  武の国主は、覇王になることはできなかった。
 武の国は、破れ去り、衰退し、忘れ去られた。

 しかし、武は、忘れられることはなかった。

 あれほどの豪の者が、やすやすと殺られるはずがない。
 人々の心の中で、武は、海を渡り、広大な大地で、戦い続けた。

 こうして、武は、戦いの神になったのだった。

1995/07/26

2016/03/10

伝説

 フィリップ候は、勇猛をもって、諸国に知れ渡っていた。

 人々は、敬意を表して、彼のことを、ただ、ナイトと呼んだ。この呼称には、人々の茶目っ気も混ざっていた。候の王妃に対する、純粋な熱愛も知れ渡っていたのだ。

 隣に接する敵国は、候の仕える国が、欲しくてたまらなかった。この国を手に入れることは、王の中の王になる道を手に入れることを意味する。最大の障壁となるのは、フィリップ候だった。

 敵国は、王妃をさらった。王は、莫大な身の代金を申し出たが、敵国は、受け入れなかった。敵国は、候を要望した。候は、王妃への愛故に従った。

 敵国で、候が会ったのは、王妃の首だった。候は、号泣し、怒り狂った。10人以上のもの、護衛兵が、素手で、葬り去られた。

 押さえ付けられた候は、両手両足を鎖で繋がれ、光りの差さない地下牢に閉じ込められた。地下牢に閉じ込められた候は、食べ物はおろか、水さえもほとんど取らなかった。

 敵国にとって、候のいない国は、赤子も同然だった。

 勝利の日、敵国の王は、部下に、フィリップ候を連れてくるように命じた。王は、捕らわれの候を見ることによって、勝利を実感したかったのだ。

 候が、広間に姿を見せると、王は、躊躇なく、候に近づいた。両手両足を鎖で縛られ、食べ物をほとんど口にせず衰えた候に王は、なんの警戒心も持っていなかったのだ。
  王が近づくと、候は、身を屈め、何事かを呟いた。王は、聞き取ろうと、頭を下げた。その瞬間、候の両膝が、撥ね上げられ、王の顎を捉えた。同時に、降り下ろされた、両肘が、王の頭頂を襲った。骨が、破壊された音がした。候には、それが、天使の歌声に聞こえた。

 呆然とした人々を広間に残し、候は、城の窓から身を踊らせた。候の身体は、暗い河に呑み込まれた。
 その後の候の行方は知れない。

 こうして、フィリップ候は、伝説の人となったのだった。

1995/05/15

2016/03/09

ゴング

 ジュンは、コーナーに座っている。

 3Rが終わったところだ。どうして、リングはこんなにも眩しいのだろう。

 ジュンは、接近して戦うことを得意としていた。典型的な、ファイターだった。

 今夜の相手は、近づくことを許さなかった。
 相手の懐に飛び込もうとすると、右のショートアッパーが、的確に襲ってきた。上体を起こされた、ジュンが、相手を視界に捉えたとき、相手は、ジュンの射程距離から遠く離れたところにいた。

 こんなときには、疲労も早い。まだ、3Rしか戦っていないのに、片足を棺桶に突っ込んだような気分だ。

 セコンドのコーチの声がする。よお、ジュン、離れて戦ってみちゃどうだ。ジュンは、振り仰いで、ジュンがファイターであることを誰よりもよく知っている、コーチの目を見つめた。その目は、お前は負けだと語っていた。負けるなら負けるで、潔く負けろ。

 ジュンは、視線をリングに戻す。もう、眩しくはなかった。白く輝いていた。
 どこかの外国の気取ったおっさんが、男は、負けと判っていても、戦わなければならないときがあるって言ってたな。そんなの嘘さ。勝つために戦うんだ。それが真実だ。

 あの右アッパーをいかに封じるか。ジュンの頭はフル回転する。ゴングが鳴る。勝利を確信した相手は、浮かれたように、勢いよくコーナーを飛び出した。
 それを見て、ジュンは、冷静に戦えば、勝機のあることを知る。

 ジュンは、ゆっくりと微笑んだ。

1995/04/27