2016/03/19

ベット

 まだ、日中の気温は、30度以上に上がるが、確実に秋の気配が感じられる。

 山奥。小屋。

 小屋の中には、ベットと椅子とテーブルがある。
 ベットに横たわる男と、椅子に腰掛けている女。

 女は、タバコを取り出す。マッチを擦る。タバコに火をつける。
 古風だな。
 女は、一瞬考える。
 ライターだと、臭いがタバコに移るわ。

 女は、立ち上がり、窓に近づく。窓を開ける。
 女は、風を頬に感じる。風は、冷たい。
 女は、冬の寒さを思う。

 女は、窓を閉める。再び、椅子に腰を下ろす。
 タバコの灰を、テーブルの上の灰皿に落とす。
 冬は、嫌い?
 男は、しばらく、天井を見つめる。
 ああ。冬は、人の温もりを恋しがらせる。だから、冬は嫌いさ。
 女は、男を見つめる。
 男は、女に視線を向ける。傷ついた身体が、少し痛んだ。
 ありがとう。君がいなかったら、自分が冬が好きかどうかも考えることができなかった。
 女は、なんでもないという風に、首をゆっくりと横に振る。

 男は、いらずらっぽい表情を浮かべる。
 ともかく、君は、僕の全てを知ったわけだ。
 女は、一瞬考え、顔を赤らめる。
 男は、微笑むと、そのまま寝入った。

 男は、幸福な夢を見ている。
 女の手が、男を起こす。

 男は、自分が見た夢について話そうとして、女の厳しい表情に気が付く。
 女の右手には、拳銃。
 男は、黙って頷く。
 女は、左手の指を3本立ててみせる。
 敵は、3人か。

 女の動きが、止まる。
 女の額を、銃弾が、打ち抜いている。

 男は、すばやくベットから、抜け出す。
 盾にするために、女の身体を横たえる。
 女の拳銃は、男の手に、ぴったりと収まる。

 男は、女の髪を優しく撫でると、気配を消した。

1995/09/02