2016/03/09

鬼 3-3

 長野修一は、いま古代日本の家屋を発掘している。

 修一の発掘の目的は、骨から復元された若者について少しでも知りたいということだった。
 若者は、どこか懐かしい感じがした。そして、自分にとって、最も大切なもの。そんな思いがしたのだった。

 修一は、不思議に思う。自分は、孤独を好む人間だ。静かな学問の世界に遊んでいる時が、一番幸せだ。そんな自分に、これほどまで人を懐かしむ気持があるなんて。

 しかし、同時に修一は、恐れを感じていた。なにかが、自分のなかで目覚めつつある。それは、禍禍しいものだった。2つのものが自分の中で成長しつつある。修一は、どちらも本来の自分であることを直感した。僕は何者なのだろうか。

 修一は、ホテルに戻った。修一の部屋は、7Fだ。

 熱いシャワーを浴びると、すぐにベットに入った。発掘作業は疲れる。神経を使うからだ。

 真夜中に、目が覚めた。自分が何者なのか、はっきりと分かった。

 僕は、古代日本人だ。そして、異なるものだ。あの若者とは、異なるものの村で兄弟のようにして育った。
 僕は、自分の両親が普通びとから殺されたことを知った。僕は、鬼となり普通びとに復讐した。僕は、異なるものの掟を破った。あの若者は、死刑執行人だ。

 若者は蘇った。そのことを修一は悟った。
 同時に、修一は、異形のもの、鬼へと変身し始めた。それは、一度破壊衝動を開放してしまった者の運命だった。残忍で狡猾な鬼が出現した。

 鬼は、咆哮した。ホテルは、その衝撃で崩壊した。
 月光に照らされた瓦礫の中から、鬼が立ち上がる。

 鬼の心に若者の優しい言葉が届いた。

 いまのままの君を愛する。君と戦うことは、間違ったことだ。
 その言葉を残して若者の気配が消えた。この世界から永遠に。

 鬼は、泣いた。やがて、夜が明ける。太陽が顔を出す。
 鬼は、太陽に向かって真一文字に飛んでいった。

 そして、消えた。

1994/11/28