ジュンは、コーナーに座っている。
3Rが終わったところだ。どうして、リングはこんなにも眩しいのだろう。
ジュンは、接近して戦うことを得意としていた。典型的な、ファイターだった。
今夜の相手は、近づくことを許さなかった。
相手の懐に飛び込もうとすると、右のショートアッパーが、的確に襲ってきた。上体を起こされた、ジュンが、相手を視界に捉えたとき、相手は、ジュンの射程距離から遠く離れたところにいた。
こんなときには、疲労も早い。まだ、3Rしか戦っていないのに、片足を棺桶に突っ込んだような気分だ。
セコンドのコーチの声がする。よお、ジュン、離れて戦ってみちゃどうだ。ジュンは、振り仰いで、ジュンがファイターであることを誰よりもよく知っている、コーチの目を見つめた。その目は、お前は負けだと語っていた。負けるなら負けるで、潔く負けろ。
ジュンは、視線をリングに戻す。もう、眩しくはなかった。白く輝いていた。
どこかの外国の気取ったおっさんが、男は、負けと判っていても、戦わなければならないときがあるって言ってたな。そんなの嘘さ。勝つために戦うんだ。それが真実だ。
あの右アッパーをいかに封じるか。ジュンの頭はフル回転する。ゴングが鳴る。勝利を確信した相手は、浮かれたように、勢いよくコーナーを飛び出した。
それを見て、ジュンは、冷静に戦えば、勝機のあることを知る。
ジュンは、ゆっくりと微笑んだ。
1995/04/27