イーグルスのドン・ヘンリーの歌声が流れてきた。
その甘いハスキーな声は、デスペラードについて歌っていた。メキシコ人は、西部時代のアウトローたちのことをそう呼んだ。
お前が、望んだのは、手に入れることができないものだけだった。
ドン・ヘンリーの歌声の中から、メキシコのどこまでも広がる青空が、浮かび上がってくる。
その青空を背景にして、シリアル番号60566のコルト型のピストルが姿を現す。
ウィリアム・H・ボニーのピストルだ。すなわち、ビリー・ザ・キッドのピストルだ。
保安官のパット・ギャレットは、ベッド・ルームの闇の中に身を潜ませた。
静かな寝息が聞こえる。ギャレットは、闇に目が慣れるのを、待った。
ビリーは、相手の鏡像だけを見て、相手を射殺したそうだ。足が震えている。手は?手は震えていない。なによりだ。
ゆっくりと、大きく息を吸う。それから、静かに吐き出した。ここは空気が少ない。
なぜ、俺はこんなところにいるのだろう。
やがて、闇に目が慣れる。間違いない。ビリーだ。
ギャレットは、銃を向ける。同時に、ビリーの目が開く。
誰だ。スペイン語が、鋭く響く。ギャレットは、夢中で、引き金を引き絞った。1発、2発、3発。後は、轟音となった。
ビリーの身体が跳ねる。シーツに火がつく。ギャレットは、弾を全て射ち尽くした。
再び、闇と静けさが訪れる。ベッド・ルームは、火薬と血の臭いで満たされている。
こうして、ビリー・ザ・キッドは、21歳の若さで死んだ。
1995/06/05