粉雪が、一片舞い降りる。
やがて、大地は、白一色になった。
その夜は冷え込んだ。
骨まで凍りつきそうだ。信夫は、そう言って、兵隊仲間と、焚火を囲んだ。
日本も、雪に覆われたのだろうか。誰かが呟く。答える者は、なかったが、沈黙の中で、みんなは故郷を思った。
以前は、信夫も、故郷を守るために、戦争をしているのだと信じ、誠実な兵士であろうと努めた。いまは、なんのために戦争をしているのか分からない。
こうして敵地で戦って来て、敵にも生活があり、大切な「故郷」があることが、よく分かった。自分達は、その「故郷」を破壊しているのだ。
村で戦った時のことだ。流れ弾が、女に当たった。脳味噌と血が噴き溢れた。女は、倒れた。側の子供は、起こったことを理解できなくて、ぼんやり立ったままだった。その子供と信夫の視線が会った。虚ろな目だった。なにもかも失ってしまった者の持つ目だった。
信夫は、視線を外した。
俺には、なにもできない。
信夫、なにをぼんやりしている。その声がすると同時に、「敵襲」の声が響いた。信夫達は、すぐさま、焚火を消した。
弾が飛んでくる。焚火の跡に、弾が着弾する。火の粉が飛び散る。飛び散る火の粉は、信夫達の影を、地面を覆った、雪に映し出した。
きれいだな。
ほんとうにきれいだ。
1995/06/10