組に入ってから、1年ほど立った頃、和夫は、拳銃の扱い方を、教えられた。
教えてくれたのは、和夫の兄貴分に当たる人だった。
その人は、無造作に、鞄に手を入れた。鞄から出された手には、拳銃が載せられていた。メタリック・シルバーのそれは、ピカピカに光っていた。
和夫は、おもちゃみたいだなと思った。それは、凶器というよりは、ガラス・ケースの中に、飾られるべきもののように見えた。
弾が込められる。安全装置を外す音がする。
その人は、グリップを和夫の方に向けて、拳銃を和夫に差し出した。
和夫は、反射的に、拳銃を掴んだ。
俺を撃ってみろ。和夫は、驚愕した。
俺を撃て。その人は、恐ろしい眼差しで、和夫を睨んだ。
和夫は、震えた。
悲鳴と共に、引き金を引いた。弾は、外れた。
拳銃は、あっという間に、その人の手の中に戻った。
和夫は、足を撃たれた。撃たれたショックで、気を失った。
意識が戻ると、ベットに寝ていた。足には、包帯が巻かれていた。
枕元には、あの人が、立っていた。
いいか、和夫。拳銃はな、少しでも、逸れると、当たらないんだ。
その人は、右手を拳銃の形に造ると、腕を伸ばし、和夫の足に押しつけた。
拳銃は、こうやって使うものさ。
その方法で、和夫は、その人を射殺した。
和夫は、優秀なヒットマンになった。
人を殺すことは、朝、顔を洗うことと、同じことだった。
和夫は、時々考える。
人を殺すことさえ、退屈なことだ。
多分、生きることには、なんの楽しみもないのだろう。
1995/07/22