東京。
青空。強いというよりは、暴力的な光。
梅雨が明け、夏が来ていた。
公園。
爽やかな、風が、吹き抜ける。
風は、子供達を呼び寄せ、駆け回らせる。
パイプで組まれた、時計塔の時計は、10時35分を指している。
時計の上に、烏が、止まっている。
この不吉な、黒い鳥は、いつだって、死に惹かれてやって来る。
昔、ここは、鍍金工場地帯だった。
鍍金には、六価クロムが、使用される。黄色の溶液。その液体は、肺癌を起こし、鼻の軟骨を溶かす。
行政は、六価クロムを地中に埋没させた。六価クロムの山の上に、公園を造った。
悪魔は、いつだって、地の底からやって来る。
六価クロムは、徐々に、しかし、確実に、地底に染み込んでいった。そして、周りに禍をもたらした。
行政は、見事な、答弁をやってのけた。
表土からは、いかなる六価クロムも検出されていません。
公園。
子供達。母親達。みんな、夏という暴力的な季節を歓迎している。
木陰のベンチに座って、母親達は、明るく笑っている。
母親達は、悪魔のことを知らない。自分の子供が、喘息で、苦しんでいるのは、悪魔の所為だということを知らない。
太陽を、雲が覆う。
公園は、影に包まれる。
走り回っていた子供達が、一斉に座り込み、激しく咳き込む。
雲が去る。暴力的な光。
子供達の咳き込む声は、青空に吸い込まれた。
1995/07/24