2016/03/15

公園

 東京。
 青空。強いというよりは、暴力的な光。
 梅雨が明け、夏が来ていた。

 公園。
 爽やかな、風が、吹き抜ける。
 風は、子供達を呼び寄せ、駆け回らせる。

 パイプで組まれた、時計塔の時計は、10時35分を指している。
 時計の上に、烏が、止まっている。
 この不吉な、黒い鳥は、いつだって、死に惹かれてやって来る。

 昔、ここは、鍍金工場地帯だった。
 鍍金には、六価クロムが、使用される。黄色の溶液。その液体は、肺癌を起こし、鼻の軟骨を溶かす。
 行政は、六価クロムを地中に埋没させた。六価クロムの山の上に、公園を造った。

 悪魔は、いつだって、地の底からやって来る。

 六価クロムは、徐々に、しかし、確実に、地底に染み込んでいった。そして、周りに禍をもたらした。
 行政は、見事な、答弁をやってのけた。
 表土からは、いかなる六価クロムも検出されていません。

 公園。
 子供達。母親達。みんな、夏という暴力的な季節を歓迎している。

 木陰のベンチに座って、母親達は、明るく笑っている。
 母親達は、悪魔のことを知らない。自分の子供が、喘息で、苦しんでいるのは、悪魔の所為だということを知らない。

 太陽を、雲が覆う。
 公園は、影に包まれる。
 走り回っていた子供達が、一斉に座り込み、激しく咳き込む。

 雲が去る。暴力的な光。
 子供達の咳き込む声は、青空に吸い込まれた。

1995/07/24