時は、戦国。
ある国に、武という、豪の者がいた。
子供の時、はや、人並み外れた体格を得ていた。酒に酔い、乱暴を働いていた、荒くれ達を、片手で、次から次へと、投げ飛ばしたそうだ。
荒くれ達は、相手が、子供だと知って、驚き、その子供に忠誠を誓った。
武は、もともと、父親的性格の持ち主だった。
武は、一帯の荒くれ達を、率いるようになった。
ある日、武は、荒くれ達の中から、主だった者を集めた。
俺は、この国の殿様に仕えてみようと思う。
この国で、俺達の相手になる者は、もう、誰もいない。
しかし、国と国になれば、手強い奴らが、わんさといる。
俺は、そ奴らと、戦ってみたいのよ。
荒くれ達も、戦うことを何よりも、愛していた。
武と、その一団は、この国の、正規軍になった。
この国の主も、当然、覇権を狙っていた。
武たちの申し出は、渡りに船だったのだ。
武一団に、馬と武器と食料が支給された。
武は、防具は、悉く、返した。馬の負担になる。歩行の負担になる。
武は、戦いにおいて、最も、大切なのは、スピードだと知っていた。
武一団は、強敵を、次から次へと破った。
武の国は、覇権を握ろうとしていた。
国主は、武たちの労をねぎらうために、武たちを、城内に招いた。
その席に出された酒に痺れ薬が、入っていた。
武が、目を覚すと、剣を片手に、仁王立ちになった殿がいた。
身体は、動かない。
なぜ、俺を殺す?
そなたは、私のことを、疑ったことがあるまい。
そなたは、純粋過ぎる。
いまの段階で、それは、非常に危険だ。
主は、その言葉を言い終わらないうちに、一刀のもと、武の首を撥ねた。
武の国主は、覇王になることはできなかった。
武の国は、破れ去り、衰退し、忘れ去られた。
しかし、武は、忘れられることはなかった。
あれほどの豪の者が、やすやすと殺られるはずがない。
人々の心の中で、武は、海を渡り、広大な大地で、戦い続けた。
こうして、武は、戦いの神になったのだった。
1995/07/26