2016/03/16

伝説

 時は、戦国。
 ある国に、武という、豪の者がいた。

 子供の時、はや、人並み外れた体格を得ていた。酒に酔い、乱暴を働いていた、荒くれ達を、片手で、次から次へと、投げ飛ばしたそうだ。
 荒くれ達は、相手が、子供だと知って、驚き、その子供に忠誠を誓った。

 武は、もともと、父親的性格の持ち主だった。
 武は、一帯の荒くれ達を、率いるようになった。

 ある日、武は、荒くれ達の中から、主だった者を集めた。
 俺は、この国の殿様に仕えてみようと思う。
 この国で、俺達の相手になる者は、もう、誰もいない。
 しかし、国と国になれば、手強い奴らが、わんさといる。
 俺は、そ奴らと、戦ってみたいのよ。

 荒くれ達も、戦うことを何よりも、愛していた。

 武と、その一団は、この国の、正規軍になった。
 この国の主も、当然、覇権を狙っていた。
 武たちの申し出は、渡りに船だったのだ。

 武一団に、馬と武器と食料が支給された。
 武は、防具は、悉く、返した。馬の負担になる。歩行の負担になる。
 武は、戦いにおいて、最も、大切なのは、スピードだと知っていた。

 武一団は、強敵を、次から次へと破った。
 武の国は、覇権を握ろうとしていた。

 国主は、武たちの労をねぎらうために、武たちを、城内に招いた。
 その席に出された酒に痺れ薬が、入っていた。

 武が、目を覚すと、剣を片手に、仁王立ちになった殿がいた。
 身体は、動かない。

 なぜ、俺を殺す?
 そなたは、私のことを、疑ったことがあるまい。
 そなたは、純粋過ぎる。
 いまの段階で、それは、非常に危険だ。

 主は、その言葉を言い終わらないうちに、一刀のもと、武の首を撥ねた。

  武の国主は、覇王になることはできなかった。
 武の国は、破れ去り、衰退し、忘れ去られた。

 しかし、武は、忘れられることはなかった。

 あれほどの豪の者が、やすやすと殺られるはずがない。
 人々の心の中で、武は、海を渡り、広大な大地で、戦い続けた。

 こうして、武は、戦いの神になったのだった。

1995/07/26