大きなガラス窓越しに、晴海通りが、横たわっている。
静かな音楽。
少し気恥ずかしくなる、白で統一した、インテリア。
中年の、もの静かな、男性が、テーブルの間を動き回る。
秋夫は、アイス・ティーを2つ注文した。
トラックが通り過ぎる。音は、聞こえない。
華やかな街の中を、産業道路が走っている。
だから、僕はこの街が好きなのかな。
秋夫の視線が、トラックを追う。その視線が、窓ガラスの中で、あの人の視線とぶつかる。
あの人は、窓ガラスの中で、微笑んだ。
あれから、何年になりますでしょうか。ずいぶん歳を取って、びっくりなさったでしょう。もうすぐ、本物のおばあちゃんになるんですよ。
アイス・ティーが、運ばれて来る。2つのアイス・ティーが、静かに、テーブルに置かれる。
秋夫は、アイス・ティーに、口をつけた。
そう、ずいぶんの時間が立った。
あの人は、30代の半ば、僕は、20歳になったばかりだった。
秋夫の心の中では、その時から、時計が止まっていた。
だから、初めてあの人を見たとき、ショックを受けた。
人は誰でも、歳を取る。そう、それだけのことだ。
コップの中の氷が、澄んだ音を立てる。
秋夫は、コップを両手で包んだ。
冷たくて、気持がいい。
コップから手を離そうとすると、今度は、あの人の手が、秋夫の手を包んだ。
柔く、暖かった。
不意に、秋夫の目から、涙が、溢れた。
1995/07/25