初対面の藤純子と高倉健。
雨が降っている。濡れる高倉健に傘を差し出す藤純子。
二人の手が軽く触れる。
健太は、その時火花が飛び散ったのを見た。
'To meet you is to love you.'その言葉が、健太の心に染みた。
映画館の近くの喫茶店の中。健太と祖父が座っている。
健太は、「火花」のことを祖父に話した。ほう、お前には見えたか。祖父は健太を見つめた。
お前には才能があるということだ。才能ってなんの話だい。いいか、恋をするにも才能が必要ってことだ。選ばれた人間だけが、本物の恋をすることができる。
これは、受け売りだがな、愛はエロスという凡庸さを伴っている。健太はキョトンとした。難しいや。いや、簡単なことだよ。愛は、結局は平凡なものに終わるということだ。激しい恋も、いつかは醒めるということかい。
そうだ。そんな恋の激しさは、エロスゆえの激しさだったということさ。要は、エロスからどこまで遠くまで行けるかということだ。エロスから離れたとき始めて愛は羽ばたく。
でも、エロスがなければ、恋は始まらないだろう。ふーん、なかなか賢いね。だから、才能と言ったのさ。
もう一度、祖父は健太を見つめた。その目は温かい。
後年、健太は心中事件を起こした。祖父はそれを聞いてあっぱれと叫んだ。
1994