2016/03/09

少し不幸なフランソワ

- フランソワは少し不幸でないと、映画が作れなかったんです - トリュフォー前夫人

 健太の父親は、まだ健太が幼い頃に亡くなった。だから、健太は父親のことをほとんど覚えていない。

 その代わり、健太には美しく強い母がいた。健太は寂しい思いをしたことはなかった。

 でも、クラスメートが父親と連れ立って歩いているのを見ると、涙が出そうになる。どうしてかな。

 健太は、母の前で父のことを口にしたことはなかった。それは、父親の分の愛情も自分に注いでくれている母に対する最低限の「礼儀」だと知っていた。そうだ、祖父に聞いてみよう。

 翌日、健太は祖父を訪ねた。そして、話した。祖父は、黙って聞いてくれた。俺がいるだろ。祖父は、そう言ったきりだった。
 でも、健太は救われた。心の一番奥にある部分が癒されるのが分かった。祖父は、やっぱり最高だ。

 帰り道、クラスメートが父親とキャッチボールをしていた。健太は、2人に元気よく挨拶した。

1994