大気の中の光りは、きらめきと一緒に、優しさも持っていた。
木々の葉は、色づき始めている。郊外の静かな公園。
幸せそうな、家族が行き交う。
男も、妻と小さな女の子を連れている。
子供は、嬉しくて、笑い声を上げている。妻は、愛おしそうに子供を見つめている。
これ以上、なにを望む。
爆音。
男の身体は、一瞬宙に浮く。次の瞬間には、したたか地面に叩きつけられた。
男の目の前に、ちぎれた手が、落ちてきた。娘の手だった。
男の意識が無くなる。
テロは、いつだって、有効さ。
現政府が、市民の安全さえも、守れないということを、効果的に宣伝できる。
市民は、心から、安全を望むようになる。
その時、俺達が登場するのさ。
みなさん、我々にお任せください。この社会から、あらゆる暴力を葬り去りましょう。
俺達は、指導者の地位を手に入れ、この退廃した社会の代わりに、理想の社会を作る。
完璧だろう。
裸電球の光りが、地下室の床に、テロリストの影を作り出している。
その影が、立った。
影の手が、日本刀のように、水平に振られる。
テロリストの首が落ちる。ゴトンという音がした。
夜。月は、雲に隠されている。
白い建物。
建物の壁面を、男たちが手際よく登っている。
男たちは、全員1つの窓の中に消える。
建物の室内。男たちと、ベットと、ベットの上に横たわる男。
1人が、ベットに近づき、男の生命維持装置を外す。
波形を描いていた計器が、直線を表示する。
これで、奴も現われないさ。
窓から、風が入る。カーテンが、はためく。
雲は、風に流され、月が顔を見せている。
月光が室内に男たちの影を作った。
影が、動く。
1995/08/19