夏の朝。
風が死んでいる。
暑い。
その暑さの中で、修一は、荷運びをしている。
自分のくっきりした影に、自分の汗が、したたり落ちる。
梅雨明けの暑さの中では、気を失いそうになった。
そんな酷い暑さにも、いまは慣れてしまっている。
修一の仕事を見て、周りの人間は、たいへんだと言う。確かに、たいへんだった。でも、修一は、この仕事が気に入っていた。
修一は、寡黙に、一生懸命働く人間が好きだったし、自分でも、そう働きたいと思っていた。それには、この仕事は、ピッタリだった。
夜は、よく眠れ、ご飯は旨味しく食べれた。
俺は、幸せだ。
毎日、こうして、修一は、夕方まで働く。それから、更衣室で着替える。
着替えていると、更衣室のドアが開く音がした。
言葉を交わしたことはないが、いつも懸命に働く人で、修一が、好感を持っていた人間だった。
修一は、声をかける。男は、挨拶を返す。
男は、仕事の苦労に関して、話し始める。難しいと言いながら、男の顔は、ほころんでいる。
修一は、声をかけてよかったと思いながら、男の話を聞く。
それから、男は、それじゃと言うと、出ていった。
男は、すぐに戻ってきた。
俺、あと2日したら、退職するんだ。年齢の上限に引っ掛かるのさ。
修一は、驚くが、仕方ないことだとも思う。男は、紙を見せる。それは、退職者たちへの食事会の案内だった。
会社が、やってくれるんだ。
男は、喜んでいたが、修一は、拳を握り締めた。歳だからとほっぽりだしておいて、なにが食事会だ。
それじゃと男は、出ていく。修一の拳が、じょじょに開く。溜息を吐く。
修一も更衣室を出ようとする。
鏡の中の、自分の影が、目に入る。修一は、足を止める。
修一は、その影を見つめ続ける。
俺は、いつから、怒るのを忘れてしまったんだろう。
1995/08/18