2016/03/09

男と女

- ホテルのレストラン。向かい合う男と女。ボーイが注文を取り、去る。もっと注文して欲しいみたいだったわ。よし、彼を喜ばせよう。ギャルソン!ボーイが来る。注文を頼む。部屋をひとつ - クロード・ルルーシュ『男と女』

 健太は、母が自慢だ。優しく美しい。そして、強い。

 夜道を母と歩いていた時、母が酔った男達から絡まれたことがあった。そこをお退きなさい。そう母は言っただけだった。しかし、男達はひるんだ。その声は、穏やかだったが凄みがあった。結局、男達はブツブツ言いながら去った。

 お母さんは、すごいなあ。健太の母は、笑った。少なくても、酔っ払いには負けないわ。月光が、今日はさえざえとしている。その月光が、母の上気した横顔を照らしている。本当にきれいだな。健太は心の中で賛嘆した。そして、決心した。思い切って聞いてみよう。

 お母さんは、どうして結婚しないの。健太の母は、立ち止った。そして、健太の瞳をのぞき込んだ。どうして、そんなことを聞くのかな。

 街をお母さんと一緒に歩くと、男の人達はみんな振り返るよ。お母さんは、きれいだ。素敵な人が見つかるよ。その人と結婚すれば、幸せになれる。そう僕は、思うんだ。健太の母は、少し考え込んだ。

 私は、寂しそうに見える?うん。そうか。それは、私があの人をまだ愛しているからだわ。健太はどう?お父さんのことはほとんど覚えていないよ。そう健太は正直に言った。そうね、無理もないわ。話を戻しましょう。

 健太、人間には2通りあるの。いろんな人を愛して自分を深めていく人と、ただ一人の人を愛し続けて自分を深める人の2通りの人がいるの。私は、後者のタイプだわ。愛している人がいるから、結婚しないの。そう言ったときの母は、本当に幸せそうだった。

 健太は、ふと不安になって、聞いた。お父さんと僕とどっちが好き?健太の母は、迷ったが正直に言った。あの人よ。

 健太は、その言葉を受け入れることが出来た。誇らしい気持になった。自分が一つ成長したのが分かったからだ。

1994