2016/03/17

白い波

 外では、真夏の太陽が、照りつけている。
 あまりの暑さに、蝉の声はない。

 一正は、母親を見た。静かに寝息を立てている。

 時計を見る。2時まで、あと30分もある。
 一正の母親は、一正に1時から2時の間は、昼寝をするように、命じていた。

 一正は、そっと母親の側から、離れた。
 海を見よう。そう思った。潮騒の音が聞こえる。

 一正の家は、海の近くだった。

 白く輝く道路。蝉の死骸。
 なかなか、辿り着かない。
 走ってみる。足がもつれる。

 道路は、熱く焼けていた。
 一正は、皮膚が焼けるかと思った。涙が出た。
 泣き声だけは出すまいと、歯を食いしばる。
 振り返る。引き帰そうにも、家は、遠かった。

 いつになったら、辿り着くのだろうか。

 一正は、歩き続ける。
 突然、海が現われた。
 あれほど、遠くに思えたのに、現われるときは、あっさりと現われた。

 一正は、波の音に包まれた。うるさい位だった。
 そのまま、一正は、砂浜に座り込んだ。
 海は、深い藍色をしていた。

 水平線。
 水平線の近くでは、空は、水色を見せている。
 水平線が、白く波立つ。
 その白い波は、心地好い速さで、海岸に近づいてくる。

 海が、白く沸騰した。
 イルカだった。100頭以上のイルカ。
 イルカたちは、海岸に殺到した。
 次々に、砂浜に飛び出す。

 一正は、恐怖に凍りついた。
 熱い手が伸びてきて、一正を抱きかかえた。
 母だった。

 母は恐い顔をしていた。

1995/08/13