外では、真夏の太陽が、照りつけている。
あまりの暑さに、蝉の声はない。
一正は、母親を見た。静かに寝息を立てている。
時計を見る。2時まで、あと30分もある。
一正の母親は、一正に1時から2時の間は、昼寝をするように、命じていた。
一正は、そっと母親の側から、離れた。
海を見よう。そう思った。潮騒の音が聞こえる。
一正の家は、海の近くだった。
白く輝く道路。蝉の死骸。
なかなか、辿り着かない。
走ってみる。足がもつれる。
道路は、熱く焼けていた。
一正は、皮膚が焼けるかと思った。涙が出た。
泣き声だけは出すまいと、歯を食いしばる。
振り返る。引き帰そうにも、家は、遠かった。
いつになったら、辿り着くのだろうか。
一正は、歩き続ける。
突然、海が現われた。
あれほど、遠くに思えたのに、現われるときは、あっさりと現われた。
一正は、波の音に包まれた。うるさい位だった。
そのまま、一正は、砂浜に座り込んだ。
海は、深い藍色をしていた。
水平線。
水平線の近くでは、空は、水色を見せている。
水平線が、白く波立つ。
その白い波は、心地好い速さで、海岸に近づいてくる。
海が、白く沸騰した。
イルカだった。100頭以上のイルカ。
イルカたちは、海岸に殺到した。
次々に、砂浜に飛び出す。
一正は、恐怖に凍りついた。
熱い手が伸びてきて、一正を抱きかかえた。
母だった。
母は恐い顔をしていた。
1995/08/13